管理会計の面白さ

1.「管理会計の基礎」より

 私は現在、小樽商科大学大学院博士後期過程の2年目です。
大学院進学の際には一般入試ではなく社会人入試を受け合格したのですが、いざ入学し授業を受けてみてわかったのは、授業には社会人入試向けも一般入試向けもなく、皆、一緒であるという当たり前のことでした。
1年目の前期は時間割が合わず授業をひとつも受けず、後期にひとつだけ受講した授業は私一人だけが受講生だったので気づかなかったのですが、2年目の今年、一般入試で入学した学生と一緒の授業を受け理解しました。

 その一緒に受けている授業とは「現代管理会計情報特論」という管理会計の授業です。今まで小樽商科大学の学部4年、修士2年と小樽商大で過ごしてきましたが、恥ずかしいことに管理会計の授業を受けたことはありませんでした。
管理会計というと予算管理や原価管理というイメージでした。それが、授業で最初に示されたテキスト「管理会計の基礎」」(溝口一雄 中央経済社 1987年 3150円)を読んで、そのイメージが吹っ飛びました。

 もう何度も紹介していますが、「管理会計の基礎」には、冒頭に次のようなことが書いてあります。

「資本主義の初期の企業は個人企業であって、企業家と経営者が一体であった。経営規模も小さく、経営の管理もまったく企業者の個人的な能力に依存した、主観的で非システマティックなものであった。」
「経営者は何のために行動しているのかといえば、企業をめぐるいろいろな利害関係をもった集団の利害をまとめ上げ、これらを調整しながら、企業の本質的な目的を追求していくものだといえる。経営者というのは、企業の精神を象徴しているといっても過言ではない。」
「経営者は、企業の利害関係者の誰がみてもよいように、財務諸表を公開するものである。」
「経営者」は、経営管理の主体なのであって、企業経営の目的を遂行することをその役割としている。」
「企業は社会がそれに何かを求めて生まれたものである。この社会が要求する目的に応えなければならない」

 会計の話より先に、会社とは何か、経営とは何かという本質を的確に表現されています。この部分を読んで、溝口一雄さんという学者は本質を見極めることができる一流の学者さんだったと感じました。

 今週は管理会計の面白さについて、授業で取り上げたテキストを取り上げながら、紹介します。


2.「エッセンシャル管理会計」より

 昨日紹介した「管理会計の基礎」」(溝口一雄 中央経済社 1987年 3150円)は、授業で使うテキストの最初にあげられていたので予習していたのですが、実際に授業が始まり最初の打合せの時に、この本の代わりに「エッセンシャル管理会計」(谷武幸 中央経済社 2011年 2940円)を使うことになりました。

 この本には、次の図が掲載されており、これが盛和塾で稲盛和夫塾長の説く、経営の原点12ヶ条の大事な最初の1条、2条とぴったりだと感服しました。
エッセンシャル管理会計(谷武幸)より

 図の一番上にあるのは「経営方針・経営戦略」ですが、これは経営の原点12ヶ条の1条、「事業の目的・意義を明確にする」ことであり、経営理念を立てることです。
そして長期計画を立て、単年度の予算を立て、それをPDCAを廻し実行していきます。経営の原点12ヶ条の2条、「具体的な目標を立てる」とは、最終的に月次の予算を立てそれを必達させることです。

 私の勉強会でこの図を紹介すると、このPDCAサイクルのA(アクション是正)にあたる「是正行動」からD(ドゥ実行)へ横線が伸びていることを見て、目からウロコが落ちたと感想を述べた人がいました。
通常のPDCAサイクルではAは次のP(プラン計画)に反映され、それが次のDに反映されるには時間がかかるが常々気になっていたそうです。

 この本を読んでいて気になった点がひとつあります。
「行動一致と呼ばれるのは、個人目標と組織目標の同一化は必ずしも必要でなく、組織構成員が組織目標の達成につながる行動をとればよいからである。」という文章です。
この文章は、「組織目標に一致した行動を組織構成員からどのように引き出すか」について書かれたものであり、「これは目標一致または行動一致と呼ばれる」とあります。文章をそのまま読むと、行動一致があれば良いように読めますが、それはそうではないだろうと思います。


3.「4つのコントロール・レバー」より

 管理会計の世界ではもともとプランニングとコントロールという概念がありました。トップが計画し従業員がそれに従い作業するというものです。
それが、1965年にアンソニーという人が発表したマネジメント・コントロールという概念にとって変わられました。
マネジメント・コントロールとは簡単にいうと、部下に任せた意思決定が組織目標にそうように働きかけることです。

 そしてその後、ロバート・サイモンズが「ハーバード流 「21世紀経営」4つのコントロール・レバー」(産能大学出版部 1998 年)という本をだし、そこで経営管理システム(マネジメントコントロールシステム)には4つのレバーが必要だと発表しました。

 4つのレバーとは、
・信条のシステム
・事業倫理境界のシステム
・双方向型のコントロール・システム
・診断型のコントロール・システム
です。

 信条のシステムとは組織の目標に向かって進む仕組みのことであり、事業倫理境界のシステムとは、目標に向かうからといって何をしても良いというものではないということです。
診断型のコントロールシステムとは従来型のコントロール・システムです。

 では、双方向型のコントロール・システムとは何か.

 双方向方のコントロールシステムとは、戦略面での不確実性に対応するために、マネジャーが部下の意思決定行動に規則的に介入するための活用する公式的な情報システムだと書かれています。
トップの考えた戦略が考えた通りにいくことは限りません。組織の各レベルでの活動状況を双方向のコミュニケーションにより共有し、行動から戦術を学習し、戦略につなげていくということをかのうにするための仕組みが求められます。

4.「戦略バランスト・スコアカード」より

 昨日、4つのコントロール・レバーの話で、双方向のコントロールシステムについて今日お話すると書きましたが、現在、明日の授業のレポート追われています。

 そのレポートの題材は、「キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード」(櫻井通晴監訳 東洋経済新報社 2001年 3400円+税)。
これが本当に面白い。

 何が面白いのか。

 今までの管理会計は、財務で表される金銭ベースにした視点から考えられてきました。
しかし、バランスト・スコアカードでは、財務の視点を含め以下の4つの視点から戦略を考えます。
1.財務 株主の視点からみた成長性、収益性、リスクの戦略
2.顧客 顧客の視点からする価値創造と差別化のための戦略
3.内部ビジネス・プロセス 顧客と株主の満足を生み出すような各種のビジネス・プロセスのための戦略的優先順位
4.学習と成長 組織の変革、革新、成長を支援する雰囲気を作り出す優先順位

 これらでは、金銭以外の数値的指標、例えば人数や生産量、時間など、いろいろな数値が用いられます。

 例えば、同書にモービルの例が紹介されていますが、モービルの顧客の視点における戦略テーマののひとつに「消費者を喜ばせる」というのがあります。
そのテーマに則した戦略目標は「標的とした消費者を継続的に喜ばせる」であり、その成果尺度には1.主要な市場におけるセグメント占有率、2.覆面調査員による評価を使う、と書かれています。
もう1例。学習と成長の視点における戦略テーマは「やる気のある有能なスタッフ」です。その戦略目標の一つには「活動に対する組織風土」があり、その成果尺度には従業員調査の結果が用いられます。

 面白さのもう一つ。

 上述した4つの視点での戦略テーマは因果関係で関連付けられ、戦略マップとして表されるということです。
同書にあるモービルの戦略マップを紹介します。

モービルの戦略マップ

  

5.「原価企画 戦略的コストマネジメント」より

 「原価企画 戦略的コストマネジメント」(加登豊 日本経済新聞社 1993年 2427円+税)は原価管理について書かれた本で、その原価管理(コスト管理)の重点の推移について次のように書かれています。

1.実際原価計算のレベル 実際原価の期間比較によるコスト管理
2.標準原価計算のレベル 標準実績比較によるコスト管理
3.物量管理のレベル JIT生産、小集団活動、FA化などによるコスト低減
4.原価企画のレベル 品質、信頼性、機能、コストの同時作り込み
5.戦略的コスト・マネジメントのレベル 全社戦略の中枢機能としての戦略的原価企画

 1の実際原価計算は実際にかかったコストを集計し、月次単位や会計年度単位で見るというものです。
2の標準原価計算とは製造やサービスの仕様を決めそれにかかる原価もあらかじめ設定し、それにそうように製造やサービスを行うというものです。
3の物量管理のレベルとは、JIT(ジャストインタイム)生産や小集団活動、FA化など生産活動における無駄の排除、効率のアップによるコスト低減の活動です。
4の原価企画とは製品の企画段階から製品の機能を決めると同時にいくらの原価とするかというコストも決めていくというものです。
5の戦略的コスト・マネジメントとは経営方針や戦略、中長期の計画に基づき、目標利益を設定し、それを実現する原価を決め、それを可能にする生産方法を取るというものです。

 費用を考えるときは費用だけ考えるのではなく、それがどれだけの売上なのか、そして利益がどれだけになるのか、この視点が大事だと気づきました。

 原価企画自体は1970年代からトヨタなどで行われていたそうです。それが管理会計の学問の世界で本格的に話題にあがったのが1993年のこの本からだと聞きました。
実際に企業でおこなわれていることでも学問の世界で認知されていないことはまだ多く、その中には重要な経営の鍵となるものもあると考えます。
中小企業における経営の鍵を学問の世界で検討してもらえるよう、今後も自分自身の活動を続けていこうと思います。


6.「レレバント・ロスト」より

 「レレバンス・ロスト 管理会計の盛衰」(H.T.ジョンソン R.S.キャプラン 鳥居宏史訳 白桃書房 1992年)、この本は当時の学問としての管理会計が実際の経営に役に立っていないじゃないかということを書いた本だそうです。
これが管理会計の学者たちに大きなショックを与え、それから実際の経営の現場をよく観察し、例えば京セラのアメーバー経営や、トヨタなどで行われていた原価企画などが学問として取り上げられるようになったとのことです。
さらにいうと、それまで欧米の研究こそが学問の第一と考え研究してきた日本の管理会計の研究者たちが、日本の企業に目を向けるようになったとのことです。

 大学院博士後期課程で学んでいますが、未だに中小企業の業績向上につながる研究に出会っていません。私なりの「レレバンス・ロスト」を書こうかと思っています。


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コメント / トラックバック2件

  1. 古川 正雄 より:

    F通で大学関係の仕事をしております。Institutional Reserchにおける管理会計とBSCの
    関係が分からずモヤモヤしていましたが、少し整理された気がします。ありがとうございました。

  2. 小椋俊秀 より:

    古川 様
    コメントありがとうございます。
    このブログが多少でもお役にたったのなら、うれしく思います。
    今後もよろしくお願いいたします。

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