経営と管理会計 

小樽商科大学の博士後期課程に籍をおいて2年目になります。1年目の去年はカリキュラムの時間割が合わなかったことと20年以上の時間を経て大学に戻った自分自身の頭のリハビリもあり、研究指導以外の教科は、後期に「現代経営組織特論」の1科目を受講しただけでした。

今年は前後期それぞれに2教科受講する予定ですが、前期の1つが「現代管理会計情報特論」です。現在、その授業の準備として、「管理会計の基礎」(溝口一雄編著 中央経済社 1987年 3000円+税)と「エッセンシャル管理会計」(谷武幸 中央経済社 2009年 2800円+税)の2冊を読んでいます。

私は学部、修士時代を通じ管理会計をきちんと勉強したことはありませんでした。管理会計というと損益分岐点分析や原価計算といった、なにかしらテクニカルなイメージを持っていました。しかしながら、上記の本を読んで、管理会計の成り立ちや背景、その目的を知ると全く目からウロコの状態で、なるほど、管理会計は経営者のための会計であると理解でき、また、経営者は是非とも管理会計の基本精神を学ぶ必要があると感じます。今週は、経営者にとって必要な管理会計の勘所をご紹介します。

上記の「管理会計の基礎」には、次のように書かれています。
「経営者は、企業の利害関係者の誰がみてもよいように、財務諸表を公表するものである。」

現代の企業会計は、「財務会計」と「管理会計」の二つの会計から成り立っているが、「財務会計」は、財務諸表(貸借対照表・損益計算書など)を公表するための会計だと書かれています。財務諸表が誰が見てもよいようにということは、そこには何らかの社会的な決まりごと、社会的ルール、制度のもとで作られることを意味し、自分の会社独自の「財務会計」というのは成り立たないということになります。

一方、「管理会計」はまったく自由に企業の目的との関係から会計をみているものであり、企業経営のための管理の手段として、企業会計の機能を考えるもので、「管理会計」は「経営者のための会計」といえます。

さて、皆さんの会社では、財務諸表が利害関係者の誰がみてもよいように公表されていますか?
また、企業経営のための管理の手段であり、「経営者のための会計」である「管理会計」をどのように利用されていますか?

 

さらに、本には、「企業は社会がそれに何かを求めて生まれたものである。」とあり、そして企業は、「社会が作り出した社会的形成体であるから、この社会が要求する目的に応えなければならない。もし、企業がその要求に応じなければ、その存在の意義もないわけである。」とあります。

先日行われた北海道中小企業家同友会札幌支部の経営指針委員会で、現在行われている第9期経営指針研究会の発表で「何のために経営しているのか」という問いに対し、ある社長が「自分の存在価値を認めてもらいたい」と答えたと報告がありました。

京セラ創業者の稲盛和夫さんも、創業時には「自分の技術を世に問う」という目的だったと言っています。しかしながら、稲盛さんはその後、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること。」と理念を改めています。

社会のニーズに応えること、ここに企業の目的があり、社会のどんなニーズにどのように応えるかが、それぞれの企業の個性だといえます。経営者は、「世のため、人のため」という「利他の心」で経営することを求められます。

 

正直言って「管理会計の基礎」という本に、このような経営の本質的な意味についての記述があるとは思いませんでした。また、社会経験を踏まずに学部学生時代にこの記述を読んでも、頭の中を右から左に通り過ぎて行ったと思います。しかしながら、この第1章「管理会計の意義」に書かれていることは、企業経営の本質について書かれており、経営者必読のものと思います。著者の溝口一雄先生については何も知らないのですが、本質を的確に記述している様子は、表現が変ですが、名人・達人の域の先生なのだと感じます。

 

また本では、15世紀に複式簿記の典型があったとあり、そのころの企業について、こう書いています。
「そのころの企業、いいかえると、資本主義の初期の企業は個人企業(数人の出資者による場合を含む)であって、企業者と経営者が一体であった。」
「したがって、また経営規模も小さく、経営の管理もまったく企業者の個人的な能力に依存した、主観的で非システマティックなものであったのはいうまでもない。」

15世紀の話なのですが、21世紀の中小企業は未だにこのレベルです。
そして大事なことは、「企業者の個人的な能力に依存した」経営ですから、企業者つまり経営者が自分個人の能力を伸ばす以外に経営を伸ばす方法がないということです。

以前に書いた「私達の夢と自分の目標」では、田坂広志さんの本「仕事の思想」(PHP文庫 2003年 533円+税)から、次の文章を紹介しました。

「すなわち、「理想家」と呼ばれる人物は、
夢を実現するために変えるべき最も重要な現実が
「自分」であることを知っています。
目の前の企業や市場や社会という現実を変えていくために、
真っ先に変えるべきは「自分自身」であることを知っています。
ですから、「理想家」と呼ばれる人物は、
自分を変え、成長させていくための努力を惜しみません。」

ここの「理想家」を「企業家」「経営者」と読み替えても、まったくその通りだと思います。

 

「エッセンシャル管理会計」(谷武幸  中央経済社 2009年 2800円+税)という管理会計の本を読んでいます。上で紹介した「管理会計の基礎」(溝口一雄編著 中央経済社 1987年 3000円+税)でも感じたのですが、管理会計とリーダーシップには密接な関係があるようです。まだまだ手探り状態ですが、前者の本で、リーダーシップに関して気になったところをあげておきます。

経営管理とは、「組織のさまざまな改装における経営管理者が組織目的のたっせいのために遂行している仕事」であり、「その内容は、部下に対するリーダーシップ(指揮)に加えて、PDCAである」

計画が必要な理由。環境が不確実だからといって場当たりの行動をとったのでは経営は成り立たない。経営方針、経営戦略を策定し実施する必要がある。
経営方針:企業の経営理念や長期目的
経営戦略:経営方針を実現するために経営を資源を何に配分するかの大綱
戦略実施:経営方針や経営戦略を実現すること
マネジメントコントロール:戦略実施のPDCAサイクル
「PDCAサイクルを回すことにより、経営管理者が戦略実施を図るプロセス」

モチベーションの問題:個人目標に訴えて、組織目標に一致した行動を組織構成員からどのように引き出すか。目標一致、行動一致。

インプットとアウトプットが不明確:上司がどのように部下に働きかければ、部下から期待した行動を得ることができるかというインプットとアウトプットの関係は不明確。
人間の判断が必要:上司は部下の行動を判断しながら行動一致に向けリーダーシップを発揮しなければならない。

 

この、「モチベーションの問題:個人目標に訴えて、組織目標に一致した行動を組織構成員からどのように引き出すか。」、「目標一致」、「行動一致」。という記述について考えたいと思います。

目標一致とは組織の目標と個人の目標が一致することですが、これを難しいことだと考える人がほとんどです。
筆者の谷先生も、「個人目標と組織目標の同一化は必ずしも必要でなく、組織構成員が組織目標の達成につながる行動をとればよいからである」と書いています。

組織の目標が組織にとって利己的なものであれば、組織構成員がそれと同じ気持ちにはなかなかなり得ないでしょう。では、組織目標が利他的なものであって、誰が考えても納得するものだったらどうでしょう。

誰が考えても正しいというのは、哲学に通じます。時代が変わっても、誰が考えても正しいことを追求するのが哲学です。組織目標も哲学に達したものであれば、誰もが納得しても不思議はないでしょう。

今、たまたま結果がでている行動をとっているだけでは、次の行動の結果がどうなるかはわかりません。皆が納得できる組織目標で、考え方のベクトルを揃えることが大切だと思います。

 

経営の環境が安定していれば、トップの意思決定に基づいて下位者が作業するという集権的な仕組みでも問題ありませんが、現在のような激変する経営環境では(ほんとうは昔も、どの時代でも激変していると思いますが)、意思決定の権限を下位者に移譲し、環境変化にあった意思決定をタイムリーに行なっていく必要があります。

しかし、その意思決定が個人の考え方によってバラつくようでは組織としての整合性がとれません。各人の意思決定が組織目標に適合している必要があります。

伊丹敬之さんは、「マネジメント・コントロールの理論」(岩波書店 1986年)で、マネジメント・コントロールを
「階層的な意思決定システムにおいて、下位者に対して権限委譲された業務プロセスのコントロールや意思決定を、さらに上位者からコントロールすること」
と、書いているそうです。

下位者の意思決定を上位者がいちいち確認することは非現実的であり、下位者の意思決定が組織目標から外れないためには、考え方の一致、「目標一致」が不可欠だと考えます。

 

 

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